malicia witness 2階の目線2010 | |||
J1リーグ 10-11シーズン 7月24日 ガンバ大阪 日産スタジアム (石井和裕) トリコロールには偉大なる日本代表である中澤佑二がいる。そして、この日、ホームゲームで初めて小さな裕二が実力を披露した。ブラジルで、大きなロナウドがロナウドであり、小さなロナウドがロナウジーニョであるように、彼、小さな裕二、小野裕二は「ユウジーニョ」だ。そして、更に小さな、それでいて誰もが応援したくなるような素晴らしいサイドバックである天野が94分に決勝点を挙げた。ユウジーニョからもらった小さなパスをズドンとゴールネットに突き刺してみせた。 試合後も興奮は冷めない。 「すげーゴールだった。」 「よく、あの時間に、あんな長い距離を走ったよな。」 「小野も、よくパスを出したようねー。」 木村監督は、試合後のインタビューで天野のゴールを「マイコンの2割引」と表現したようだ。しかし、私たちは違う評価だ。 「俺の中では、今年のサイドバックのベストゴールは今日のゴールだな。マイコンを越えたよ。」 「越えたね。マイコンを越えた。」 「だから天野のゴールはパソコンだ。」 「まぁスパコンまではいかないけどな。でも凄いゴールだった。」 それはそうとして、試合開始直後の展開はスタンドを慌てさせるものだった。 いきなりイグノの左サイドから逆サイドへのクロス。バイタルエリアからのシュートを撃たれるが、かろうじて飯倉が止める。サイドの守備の穴はワールドカップ中断前から相変わらずなのでガンバのスピーディーなパス回しにトリコロールは無抵抗だ。しかし、中央は中澤、栗原、小椋が引き締め、ギリギリのところでシュートを跳ね返す。 「ヤバい!」 「マズい!」 声が出る。 「こりゃ耐えるしかないな。」 「なんとか止めてもらわないと。」 「イグノ、平井、宇佐見の攻撃陣は魅力的だなぁ。」 トリコロールのラインが下がる下がる。 「遠藤のところにプレッシャーかけないとやられるぞ。」 遠藤から両サイドのスペースにボールが送り込まれる。右の中盤にいるはずの中村が中央に入っているので、特に右はやられ放題だ。注目の遠藤と中村の司令塔対決で先手を奪ったのは完全に遠藤。スペースを与えすぎる。 一方、トリコロールは10分経っても、バイタルエリアに一度も侵入することが出来ない。ハーフウェーライン付近でパスをカットされるとあっという間のカウンターを食らう。スタンドから悲鳴が上がる。 トリコロール、最初のシュートは中村。左サイドでディフェンスラインの裏に飛び出し、角度が浅い位置からゴールの逆サイドギリギリを狙った地を這うような弾道。 「さすがだ。」 「あれ、他の選手だと枠にいかないぜ。」 「いい攻撃だ。」 ワールドカップ期間で一ヶ月ほど休養を得たこともあって中村の動きが復調している。まだ全盛期の動きからは遠いが、それでもデイフェンスラインの裏に出て行く力がある。ワンタッチ目からドリブルで相手をかわす仕掛けもある。 そしてユウジーニョが最初に感嘆の声をスタンドに沸き起こしたのは、鋭いターン、小さなフェイントからガンバディフェンス陣を揺さぶって、素早く左脚でシュートの場面。 「あのフェイント、まるでロベルト・バッジオだ。」 1990年イタリア大会でロベルト・バッジオが決めた初ゴール。そのドリブルとソックリだ。こんなドリブルをする選手は、めったにいない。 「あれさぁ、怪我をする前の小倉に雰囲気がソックリなんだよな。小倉って、ああいうプレーしてたんだよな。」 「たしかに、そうだね。」 ユウジーニョのプレーは世界の名選手たちのプレーシーンを思い出させる魅力が詰まっている。 15分。橋本が倒れる。一斉に給水に走る両チームの選手たち。風があるとはいえ、猛暑のスタジアムで給水は大切だ。 「まるで、全国少年サッカー大会みたい。」 「前半10分に試合を止めて給水タイムするやつ。」 ガンバは、ずっと試合を圧倒している。だが、個々の選手のプレーが素晴らしいかというと、そういうわけでもない。ゴール前にふわりと上がったボール。右サイドのゴールポスト近くでユウジーニョとガンバディフェンダーが焦り合う様相。 「怪しいぞ!」 「小野、行け!」 「おー!」 美味く身体を差し込んで、ゴールの天井を狙って放ったシュートは惜しくもサイドネット。 「あれ、決まったらドノバン。」 「ドノバンだったなー。」 ワールドカップ南アフリカ大会で世界に衝撃を与えたドノバンのゴールを思い出させる。 序盤、ガンバペースで試合が進んだのは、トリコロールの守備に原因がある。 「一対一のとき、どっちにも対応できるような立ち方なんだもの。」 「だから組織的な守備が出来ないんだよ。」 「相手がどっちにボールを動かしてくるか、他の選手はわからなもんな。」 「奪えなくても、せめて、どっちかにボールを追い込まないと。」 「どっちにも対応できるようにして、結局、どっちにも対応できない。」 では、ガンバが良かったのかというと、そういうわけでもない。ルーカスが不在、成績も振るわない。昨年までの圧倒的な攻撃サッカーとは幾分違う。25分を過ぎると、試合に落ち着きが出る、中村が不在となる右サイドの穴を兵藤らが埋める。それが出来るようになったからだ。そして、なぜかガンバ攻撃陣が両サイドから攻撃を行なわなくなったことも幸運。ガンバは中央からの攻撃を繰り返す。 だからといってトリコロールの時間になったわけでもない。暑さのせいか、両チーム共に動きが落ちる。暑さとピッッチでフラストレーションのハーモニー。35分。トリコロールがマイボールを前に運べない。バックパスが行なわれると、ついに味方からもブーイング。ボランチがボールを受けて展開を試みなければ、いつになってもボールは前に進むまい。 停滞のうちに前半を終えようかというロスタイム。そこにも突然、見せ場がやってくる。ハーフウェーライン付近でボールを奪ったの小野がロングシュート。惜しくもゴールにはならなかったが、見事に枠を捉える。 「よし、前半はよくやった。」 「無失点は、まずまずだろう。」 「でもガンバも動けないし、けっこう勝てるゲームなんじゃないか?」 ガンバの攻撃に迫力がないのは意外なこと。しかも、トリコロールのサイドの守備は強そうに思えないが、ガンバの攻撃には強引な中央からの突破が目立つ。 後半最初のチャンスはユウジーニョ。しかし味方のフォローがない。 「フォロー!」 「上がってこい!」 「誰か来いよ!」 やむなくユウジーニョは単独ドリブルで突破を図る。いくら非凡な才能に満ちあふれた選手だとはいえ、一人で何人ものディフェンダーをかわすことが出来るわけもない。 「もっと中盤が上がってこないと!」 そう叫んだが一瞬、展開は劣勢に。 「いや、ヤバい。」 「止めろ!」 奪われたボールはカウンターから一気に自陣へ。スピードアップで一直線にトリコロールのゴール前に迫るガンバの攻撃陣。 「人数足りない!」 「撃たれるぞ!!」 「縦を切れよ!」 絶体絶命のピンチかと思われたが副審のフラッグが上がってオフサイド。スタンドは安堵。ピッチ上では飯倉が激怒する。一息ついたらスタンドも激怒。 「なんで攻めに人数が足りなくて、守備にも人数が足りないんだよ!」 「そういうことなんだ!」 「前にも後ろにも選手がいないのかよ。」 「あとはどこにいたんだよ。もう、あり得ないだろ。」 ついにやってきた、後半最初のコーナーキック。セットプレーのトリコロールが今年は復活している。どんなボールを入れてくれるか。ターゲットは中澤か、それとも栗原か。いや、ターゲットはユウジーニョ。セットプレーのみならず中村のパスの大半はユウジーニョをめがけてくる。 再びコーナーキック。 ホイッスルが鳴る。何かが起きた。 「えっPK!?」 「PKだ!」 「よし!!」 劣勢の展開で始まった後半だけに、この先制点ゲットのチャンスの嬉しさは大きい。しかし、ペナルティエリア内で何が起きたのかが判らない。 「何で?」 「ハンド?」 「何が起きたの?」 「まいっや。とにかく決めろ。」 帰宅後にテレビを見ると、偽中沢が中澤を引き倒していた。 だほっ ボールはゴールネットを揺らさず枠外へ。 「えー!!!!」 ただ、幸運だったのは、このPK自体があまりにラッキー、いや、なぜPKだったのか判らなかったこともあって、スタンド全体でダメージを感じなかったことだ。スタジアムの雰囲気が悪くなることもなく、すぐに左サイドからの鋭い攻撃。スペースに送り込んだボールを金井がダイレクトにクロス。見事なタイミングだがニアサイドに走り込んできた兵藤はパスを受けるつもりだったのか、まったくシュートを撃てる可能性のない身体の向きでクロスを受けてしまい、簡単にゴールキックにしてしまう。 「なんでだよー。」 「お前、準備できていないなら触るなよ。後ろに味方がいるじゃねぇかよ。」 「でも、まぁいい。どんどん行け!」 まだまだトリコロールの時間が続く。左に交代で入った山瀬がドリブルで侵入し逆の右の中村にボールが回る。中村から、さらに逆サイドのバイタルエリアに走り込んできた金井にパスが渡りシュート。 「見事だ。」 「素晴らしい。」 「いい攻撃だ!」 今度は遠藤だ。芸術的な弧を描いた間接フリーキックのボールはクロスバーに当る。下にボールが落ちればゴール。だが、かろうじてボールは外に。 「すげー。」 「さすがだ。」 「美しい。」 「もう楽しませてもらったから、遠藤、もう仕事しなくていいぞ!」 前半には、あまりなかった際どいオフサイド。後半になってオフサイドが生まれているとうことは、トリコロールが落ち着いて裏を狙えるようになってきた証拠だ。 「副審、大目に見ろよ。」 「たしかにオフサイド判定はあってるけどよー。」 「ワールドカップの副審だったら、あれはオフサイドじゃないぜ。」 右サイドのペナルティエリア内でユウジーニョが山口を吹っ飛ばす。そういえば、前半にロベルト・バッジオばりのフェイントでユウジーニョに抜かれたのも山口だった。さらに、山口はこの後に途中交代となる。その山口を吹っ飛ばして、素早い足の振りでユウジーニョがシュート。 「うぁー!」 仲間どうして顔を見合わす。 80分。立ち上がりには、いかに失点せずに凌ぐか、がテーマだったが、ガンバの運動量が落ちトリコロールが押し込む展開が目の前には繰り広げられている。もはや、今日は勝つべきゲームだ。 84分。飯倉のロングボールに走り込むユウジーニョ。後ろからのボールを見事なトラップでコントロールして自分の場所へ。素早くシュート体勢へ。 「なんじゃありゃ。」 「すげ。」 「あれでゴールしたらベルカンプだよ。」 ロスタイムは4分。安田からの鋭いグランダーのクロスを飯倉がかろうじて止める。お互いにチャンスを作る。次第に、トリコロールのボールはなかなか前に行かなくなる。 「行け!」 「シュート撃たないと!」 「回してるんじゃねぇ。攻めろ!」 坂田が安田を押さえ込む。この試合では、ディファンスラインが深く、前線と中盤の連動も少なく、なかなか高い位置でボールを奪うことが出来なかった。しかし、この終盤大詰めに絶好のチャンス。あとは気迫でゴールを奪えるか。スタンドは最後のハイテンション。拍手と歓声がこだまする。 パスは中村へ。中村はバックステップを交えて少し開く動きをしたユウジーニョへ(非凡な動きだ)。ユウジーニョは、ここでフェイント。ガンバのディフェンダー陣の寄せも遅く時間を作れる。見れば、その外側に猛然と走り込んでくる小さな影がある。天野だ。その天野がユウジーニョを追い抜こうとしたその時、アウトサイドからちょこんと縦にボールが出る。ユウジーニョの絶妙のパス。それをダイレクトで打ち込む。 ゴールを奪った瞬間。そこにはタイムラグが生まれた。打ち込んだ瞬間でゴールを確認した者。ボールがゴールラインを越えた瞬間にゴールを目撃した者。ゴールネットに当ったボールがゴールの中に落ちて跳ねるのを見てゴールを確信する者。そしてスタンドは狂乱状態になる。こんなに嬉しさを爆発させたゴールはいつ以来だろう。そんなことを思いつつも飛び跳ねて拳を握る。前列にいたはずの仲間が上から降ってくる。それどころか、隣には3段も前にいたはずの仲間がいる。倒れる。メガネが飛びそうになる。 直後に松田の登場。バックスタンド2階は総立ちになる。途中出場の選手を迎え入れるだけでスタンディングオベーションなんて経験がない。そしてタイムアップ。 「天野って完全なレギュラーには心もとないんだけど、出てくるととってもインパクトあるプレーをしてファンを魅了するよね。」 「なんか代打の切り札みたいな。」 「代打川藤みたいな。」 「代打淡口みたいな。」 冷静に考えると、今後も苦戦する。なにしろ前の2人と中村は守備にほとんど参加できない。相手の攻めのコースを限定できないからディフェンスラインは深くなる。ボールを奪う一は深い。それゆえコンスタントにゴールを奪い続けることは難しいかもしれない。試合中にスタンドから非難囂々だった清水を「いぶし銀のプレー」として木村監督は賞賛した。中村が自由に動き守備のブロックを高い位置に作らない。守備は最終ラインと2人のボランチが跳ね返すことが基本。だから中央で動かない清水の守備を褒める。セントラルミッドフィルダーが攻撃の起点にならない。攻撃的なような布陣に見えて実は得点を奪いにくい布陣が今のトリコロールだ。多くを望むことは出来ない。でも1−0で勝てるかもしれない。連勝すればチャンピオンズリーグ圏内もあり得る。 「さぁ、勝ち続けるぞー!」 不安を抱きながらも期待が大きくなる。勝利とはそういうものだ。 フットボールは楽しい。 今日のポイント ●シュート本数が多くだれないゲーム。 ●それほど多くなかった観客数。 ●パススピードが速いガンバ。 ●守備は、かなり微妙。 [今日の査定]よくやったぜ。 |
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