malicia witness 2階の目線2010
J1リーグ 10-11シーズン

10月17日 ヴィッセル神戸  日産スタジアム   (石井和裕)

残留争い。有能な監督を解任しても浮上しない。エースが復帰。そもそも苦手。さらには俊輔が不在となり、神戸戦は苦戦が予想された。木村監督の選んだ布陣は両サイドに波戸と裕介を置き中盤の底は河合と小椋。おそらく守備を重視した布陣だろう。

「なんか慎重な立ち上がりになっちゃったなー。」
足下から足下へ慎重にボールを繋ぐ。攻撃のスピードは上がらない。だが奪われる心配も少ない。冒険は小野ユウジーニョのドリブル。

時間が進むに連れて解ったのは、ツートップのユウジーニョと端戸はかなり守備に奔走するということ。神戸ボールを自由にしないチェイスを繰り返す。ユウジーニョは後ろからのスライディングでカードをもらう。その反面、マイボールになっても良い状態でボールを受ける機会は少ない。

俊輔不在、足下パスの連続で活気が見られない攻撃だが、前節までには見られなかったプラス点。それは裕介の思い切ったフリーランニング。裕介だけはスペースでボールを受けようという、他の選手への要求が目に見える。そして小野が抜群の切れ味鋭いプレーを魅せる。特に、ワンタッチ目のボールの置き方とディフェンスに体重を預ける身のこなしは絶品。一瞬で前に向かってのドリブルが始まる。神戸の選手たちは、このドリブルの対処に苦労をしている。

「大久保さんが味方しているうちにゴール決めろ!」

守備に気を使うあまり、攻撃のカタチが見えない。松田、栗原の中央はしっかりと蓋をしており、不用意なパスミスを起こさない限りは失点しないのではないかと思える。逆に、マリノスのシュートはほとんどない。まともなゴールキーパーが出場しているとはいえ、まずは枠にシュートを撃たなければゴールは生まれない。神戸も緩いシュートを枠に飛ばすまで。

スコアレスで前半を終え後半へ。

裕介のドリブルが神戸の選手を退場に追い込む。ここでまさかの展開が起きる。一人少ない状況で神戸の和田監督は選手交代。攻撃のアクセントとなっていた朴康造を下げる。投入されるのは、なんと・・・。
「おい!宮本だぞ!!」
「なに、宮本!?嘘だろ?」
「あれ宮本だろ。」
タッチライン際に現れた小柄な選手の姿を見てスタンドがざわつく。
「宮本って楽天グループの会議要員じゃなかったんだ。」
「楽天グループは英語が公用語だから。」
「うわ、ホントに出てきた。」
場内アナウンスでも宮本の登場を告げる。するとアウエーチームの選手交代としては異例だろう、笑いと拍手で喝采に包まれる。
「わー宮本だ。」
「ドリブルもクロスも、全部14番を狙っていけ!」
「ラインディフェンスの裏を狙え!」
「これで12人対9人だぞ!絶対にゴールを奪え!」
見れば、宮本得意のラインディフェンス。しかし、若干の混乱が起きているようだ。守備陣形が整わない。まずは空いたバイタルエリアからユウジーニョがシュート。次に山瀬が、同じような位置からシュート。さらには、あっという間のワンツーでユウジーニョが宮本の横を素通りしてディフェンスラインの裏に抜きでて素早くゴールを決める。
「決まった!!」
「小野だ!」
「ラインディフェンス!!」
「宮本出てきたら、ホント、簡単にゴールできたよ!」
嬉しさと面白さに、飛び跳ねながら歓声と笑い。
「あーんなに選手の間隔空けたラインで守れる訳ねえじゃねぇか。」

ここが追加点の獲りどころと考えて、松田がゴール前にまでドリブルで攻め上がる。奪われたボールには山瀬がきっちりと縦を切る。反撃に出るかと思われた神戸だが、攻撃の要のポポを下げて守備的な選手を投入。
「おいおい、ポポ下げちゃうの?」

神戸の守備はさらに混乱し、トリコロールのボール回しがスムーズに。
「ここで休むなよ!」
「追加点を奪え!」
最初得点差では安心できない。流れの来ている今がチャンスだ。

神戸は石櫃が前線までオーバーラップするなど、バランスを崩して前がかりになることが増えてくる。そこで狩野の登場だ。
「頼むぞ!狩野!!」
「さっさとゲームを決めちまえ!」
大きな拍手と歓声が狩野を迎え入れる。

神戸は戸倉が脚をつって下がる。選手交代する度に戦力ダウンしていく。意気消沈も見える神戸が宮本へのバックパス。それを奪ってユウジーニョがゴール前に運ぶがゴールを奪えない。次に河合もフリーでヘディングシュートを枠に撃てない。
「馬鹿やろー!」
「いい加減に決めろー!」
決めるべきところで決められず、油断したところで出会い頭の事故のような失点をするのはトリコロールの得意のパターン。そんな心配が浮かび上がってくる流れを大久保が断ち切る。

「出た!赤だ!」
「大久保が退場だ!」
「すげーな大久保。」
「何があったの?」
「見てなかった。」
「でも大久保だから、きっと何かやったんだよ。」

試合再開。自陣でボールを回す。最初は安定したパス回しだったが、飯倉にまでボールを下げたことでリズムを失いピンチを招く。さらにパス回しの中で狩野が状況判断を誤ってパスをスルーしボールを奪われたことでスタンドの怒りに火がつく。相手が9人なのにも関わらずボールが前に進まないことを見て松田が攻撃に参加する。

中判の選手が脚を止めてパスを回そうとするから余裕が無くなる。特に狩野のところでボールが停滞。神戸の選手に狙われる。一度だけだったがセットプレーからヘディングシュートがゴールに向かって飛んでいく。一点差では危険だ。

木村監督は猛攻を求めた訳ではない。試合をフィニッシュさせることを求めたのだ。安定したパス回しでボールを動かしながら神戸の守備を揺さぶり、ボール奪取のために前へ出てきたところの裏を突いてゴールを奪うプレーであれば、あのようなブーイングは起きなかっただろう。また、10分間、パスを回し続けることが出来たのであればブーイングは起きなかっただろう。だが、現実は違う。今、ピッチの上にいるのは、これまで、残り3分であれ、パスを回して時間の経過を待つといったプレーをしてこなかったチームだ。見苦しいといわれても、コーナーキープで時間稼ぎをするという手段を採ってきたチームなのだ。だから、相手の人数が少なくとも余裕のパス回しをできなかった。それはそうだ。中判の選手が脚を止めてゆっくりとパスをしていては、いくら相手の人数が少なくてもプレッシャに晒されてボール回しはぎこちなくなる。そして自陣でボールを失い危険なシュートを放たれるのが関の山なのだ。しかたない。パス回しで相手を翻弄して時間の経過を待つといったプレーを選手たちはやってこなかったし、スタンドのサポーターの大半も、そのようなプレーを要求してこなかったのだから。安心して出来る訳がないのだ。そこで、追加点を奪いにいかないということの方が、危険な一点差のまま。自陣でボールを奪われるリスクを背負おうことになる。それが、ピッチの上で読み取れたからスタンドからはブーイングが起きたのだ。今のチーム、前がかりになりすぎないように攻撃をすることは出来ても、パス回しで時間の経過を待つことは、ほとんどやったことがないのだ。ブーイングは、趣味志向でも、目指すフットボールの姿でもなく、現実との対話から瞬時にスタンドが行なった勝利への近道への回答だった。だって、いつも格下といわれるチームに対して、気の緩んだ消極策から失点をして苦汁をなめさせられてきているじゃないか。

そしてもちろん、90分間のうち10分間も安全策のパス回しを見せられたら、プロの興行としてつまらないじゃないか、という考えもある。木村監督は、そう公言している。

なぜ、狩野が、あれほどまでに非難されたのか。それは途中交代で木村監督からゴールを奪うプレーをしろと指示を受けてきたのにもかかわらず、それを裏切ったからだ。メンタルが消極的だったとか、やる気がない、とかではなく、直接、指示を受けてピッチに入ったのにもかかわらず、監督の考えと相反するプレーをして失点の危機にチームを晒すことになってしまったからだ。一週前の天皇杯で狩野は中盤の底でのプレーをし、精彩を欠いた。しかし、木村監督は、そこですぐに狩野をベンチに下げることはなく、ポジションを、もっと前の攻撃的な位置に変更して起用し続けた。だが、その温情に応えることが出来なかった。そして、その一週間後の出来事がこの神戸戦だ。ユニフォームを脱ぎ捨てたことを大きく批判されたのは、この経緯があるからだ。ただ自分のプレーの不甲斐なさに腹を立てたのではなく、監督の意図するプレーとは相反するプレーをした。それゆえに交代させられたのだが、それにも腹を立ててユニフォームを脱ぎ捨てた。二重の裏切りだったから批判が大きかったのだ。

それはともかく、結果的には清水投入でチームはバランスを取り戻し、無事に勝ち点3を得ることが出来た。苦手の神戸を相手に勝ち点3を得られたことによって、スタンドは笑顔で試合終了を迎えることができた。仲間の表情は明るい。会話も弾む。狩野の件は残念だったが、それよりも話題はユウジーニョのゴール。そして神戸の行く末。
「神戸って、なんで三浦をクビにしたんだろうな。これヤバいだろ。」
「ポポが消え、戸倉が消え、どんどん戦力ダウンしていく選手交代。」
「神戸は債務超過チームなんだからJ2に落ちたら、いつ昇格できるかわからないぜ。下手したら、ずっと上がって来れないぜ。」
「それにしても宮本・・・。」
「ラインディフェンスの裏を狙えって、みんな言っていたら、ほんと簡単にゴールを奪ったもんな。」
「ユウジーニョは、やっぱ巧いよ。」
「それと、小野とか千真とかストライカーがゴールすると、見に来た人を幸せにするな。」
「やっぱ獲るべき人が獲るっていいことだよ。」
「それにしても宮本・・・。」

さて、次は年に一度の国際試合。鹿島への遠征だ。相手合わせのトリコロール。きっと激戦になるだろう。上位が見えてきた。この最後のチャンスをものにしよう。再びアジアの頂点に立つために。


今日のポイント

●攻撃に変化を生み出す、頭を使った裕介のドリブルコース。
●あまりに枠に飛ばないシュート。
●そろそろ持ち味をプレーで教えてほしい端戸。
●やはり相手合わせだったが勝ち点3獲れたことは重要。

[今日の査定]あーよかった、勝てて。












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