malicia witness 2階の目線2010
J1リーグ 10-11シーズン

10月31日 サンフレッチェ広島  ニッパツ三ツ沢球技場   (石井和裕)

俊輔を真ん中に、右の清水、左の兵藤を並べる。アンカーに松田を置いて、その後ろに4バック。ときには松田がセンターバックの位置にまで下がり栗原と小椋と3バックのような布陣にして両サイドバックを同時に攻撃的な高い位置にまで上げさせる。鹿島戦に完敗し、木村監督は3節くらいからはほとんど行なってこなかった戦術的な守備に手をつけてきた。

試合開始のホイッスル。同時に槙野がいきなりロングシュートを放つ。トリックプレーにどっと沸くスタンド。
「でも、今日やらないで水曜日にやればよかったんじゃないのか?」
「そうだよな。今日やったら国立で出来ないじゃん。」
槙野のパフォーマンスは広島を変えた。これまでは、玄人好みの質は高いフットボールをするが人気選手が不在で地味な印象だった。それが、スポーツ番組で長時間取り上げられ、すっかりチームカラーが変わった。槙野自身の評価も高まり代表に招集されている。もちろん評価はプレーの評価だ。

広島が後ろでボールを回す。4人で余裕を持って何度もパスを回す。実は三ツ沢には弊害がある。スタンドがトリコロールの攻撃を急かすきらいがあるのだ。試合開始から6分ほどが過ぎ、広島はいつものパス回しを見せる。
「奪いにいけよ!」
「追いかけろ!」
バックスタンドから声が飛ぶ。だが、ここは我慢しなければならない。
「行くなー!」
「焦るなー!」
ディフェンスラインにまでボールを奪いに深追いすると、広島は、とたんにパスを縦に入れてくる。穴が空くのを待っているのだ。トリコロールは、この誘いに乗らない。冷静なゲーム運び。

こう着状態の中で清水の左脚ミドル。ある程度、ポジションを固定したフットボールが、序盤は手堅いフットボールを見せる。特に高い位置での守備が利く。個人能力に頼ることなく、両サイドで前後からの挟み込みで頻繁にボールを奪う。

ところが、上手くいっていた守備に一瞬の空白。ファール気味に小椋が倒れ、動きが止まったところを失点してしまう。いいリズムでの試合運びに、まさかの綻びだ。救いは広島の段取りが悪く時間をかけすぎたためにパフォーマンスを主審がストップしたことだ。ここでスタンドは大歓声。失点のショックを吹き飛ばす。そしてすぐに小野ユウジーニョがペナルティエリアに侵入してあわやのシーンを創る。さらには俊輔から松田。ループでシュート。スコアボードを見なければ劣勢を感じない。

そして突然のユウジーニョゴール。
「おっ!」
シュートを頭でコースを変えて流し込む。ふむふむふむ、と感心してしまうようなユウジーニョの見事な反応がゴールを生み出す。これで、スタジアム内で唯一の不釣り合いだったスコアボードの得点がバランスを取り戻す。むしろ、試合を支配し続けてきたのはトリコロールなのだ。

李をはじめとする広島選手は判定に苛立ちを見せる。
「ほらほら、いいのかー?退場になると水曜日は出れなくなっちゃうぞー!」
ナビスコ直前の試合ということもあってアウエースタンドは最大級の広さ。広島からも決勝戦とワンセットに、この日の試合を応援に来ているサポーターも多いだろう。ピッチ上は逆に、退場の危険があるサイド攻撃のキーマン、ミキッチを温存している。しかし、左サイドは槙野のオーバーラップが厄介。頭を上げた清い姿勢の大型選手が素早く危険なスペースに走り込んでくる。パフォーマンスだけではない。代表に相応しいプレーを連発する。

後半はトリコロールが圧倒する立ち上がり。前半と同じように広島が最終ラインでボール回しをすればスタンド全体からのブーイングでプレッシャーをかける。ピッチとスタンドが一体になった良い雰囲気だ。このムードがあれば、選手たちが焦ることもない。

ユウジーニョのドリブルシュートまでは圧倒していたトリコロールだが、徐々に脚が止まり始め、試合全体が動きを失っていく。いつものように60分を過ぎたところで松田の運動量が落ちる。

75分から始まる広島の本気攻撃。ミキッチ、青山を加えてカウンターにスピードを増す。スペースにどんどんと人が走り込み、スピードに乗ったパスを流し込む。スタンドから悲鳴が上がる。ところが、それを逆に奪い取り、俊輔がドリブルをする間に右サイドのスペースに栗原が上がっていく。
「右だ!」
「栗原を使え!!」
スタンドから声が飛ぶ。そして、足下ではなく栗原の前のスペースにスルーパス。栗原はマイナスのグランダークロス。走り込んでくる人影は・・・
「清水ーーーー!!」
あまりのビューティフルゴールに、三ツ沢はどっと沸き、絶叫。強く振り抜くのではなく、左脚で軽く合わせてゴールに叩き込む素晴らしいプレー。

最後の最後は、狩野、松本を投入してゲームをコントロール。ホームゲームらしい試合で勝ち点3を上積みする。不運な失点はあったが、鹿島戦の完敗を忘れるような見事な勝利。試合前にスタンドでは「こんなチーム状態』という言葉を何回か聞いたが、今、ピッチ上のチームは悪くない。むしろ、どんどん良くなってきている。強豪、残留争いの相手を叩き続けて、再びアジアチャンピオンの座を奪還しよう。その資格はある、が、次の湘南戦を落としたらダメだ。


今日のポイント

●寿人はテスト出場せず。ということは3日も出場無し。
●役割を限定すると抜群の働きをする清水。
●短時間だが特徴を見せた松本。
●スペースを上手く使った裕介。

[今日の査定]行くぜチャンピオンズリーグ。












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