malicia witness 2階の目線2010
第90回天皇杯


10月9日 サガン鳥栖  ニッパツ三ツ沢球技場   (石井和裕)

闘いの場にはおよそ相応しくない、懐かしいメロディーが漂う雨まじりのスタジアム。開門後2時間経っても人の姿は増えない。まるでJFLのような、緩やかな空気の中で、ノックアウト方式のゲームが始まる。

天皇杯、J2との試合には特有の不安感がある。特に、0−0でもつれる時間が長くなると、いつもの悪夢が脳裏に鮮明に蘇ってくる。私たちにとって「10年間無敗」の常勝天皇杯は、もうすでに20年近く前の話となってしまった。今では、それは少数の語り部が知るに過ぎない過去の話。今、天皇杯は、迫り来る恐怖との闘いだ。

「おいおい、流せよ!」
「止めないでくれよ!」
右サイド、ペナルティエリアの外でのファール。アドバンテージを見てくれれば、決定機を得られたはずだが。
「主審の東城さんは、流してもゴールはないって判断したんじゃないか。」
「まぁ、そりゃぁそうなんだが。」

何としてでも早い時間に先制点が欲しい。それが、この恐怖に支配されたスタジアムからの、もっとも適切な脱出法だ。そして、俊輔が簡単に決めてくれた。

総立ちにはならない。

よかった。ほっとした。そんなキモチのサポーターも多かっただろう。バックスタンドが総立ちになることはなく「あぁ、よかった」というムード。

「これで鳥栖が前に出てくるとカウンターが当てやすくなるんだけどな。」
しかし鳥栖が前がかかりになることはなかった。時間が淡々と進む、いや進まない。時計の針は正直などころか、ゆっくりと進んでいく。今だ恐怖から逃れることが出来ない。楔をしっかり受けられる選手が起用されていない現実からして、中盤でタクトを振るうべき狩野への期待が大きいのだが、どうやら今日も期待には応えてもらえないようだ。

「ポジショニングが悪いから、狩野にボールは出ないよなー。」
「常に、ボールと皆既月食の位置にいるんだもの。あれじゃ、股抜きでもしない限り、狩野へのパスは通らないよ。」
鳥栖は浅いディフェンスラインをフラットに4枚。この裏を突く素早い攻撃が欲しいところなのだが、中盤でのパス交換に時間がかかる。

「後半の頭から狩野を下げてもいいんじゃないのか?」
「しっかりキープできる千真を早い時間に投入した方がいいよ。」
しかし、予想通り監督は手を打たなかった。そして、後半の選手交代には期待と愛情が感じられた。

ボールをかっさらって、ユウジーニョが確実にゴールヘ流し込む。セーフティリードの2点目を早い時間にゲット。これで、かなり気分が楽になる。そして鳥栖は、試合開始から変わらず、浅いフラットなラインディフェンス4枚を変えることはない。となれば、あとは、揺さぶって、揺さぶって、鳥栖の脚を止めてから、最後にとどめを刺せば良い。が、出来ない。中盤のパス回しが、前半同様に安定しないし、手数もかけすぎている。 

「もう狩野を見限って下げた方がいいんじゃないのか?」
そんな声に木村監督は違ったカタチで応える。

今の狩野の問題は、視野が狭いこと。細かな走りがないため、厳しい中盤でボールを呼び込めないこと。そのため、素早く大きな展開を作れないことにある。自らの感覚だけでプレーしている。そこで、木村監督がセレクトした打開方法が、狩野のポジションを攻撃的な中盤に移すということだった。ユウジーニョのゴールの直後に、痛めている兵藤を下げて清水を投入(今期一番の働きを魅せてくれた)。清水を中盤の底に置くことで、狩野を兵藤のポジションに移すのだ。

しかし、残念なことに、狩野は、この監督の愛情溢れる起用に応えることが出来ず、新しいポジションでも精彩を欠く。狩野が下がると注目は、代わってピッチに入った千真。どの選手も千真にゴールをプレゼントしようと、多少の無理があってもパスを出す。

恐怖の劇場は、終盤、愛の劇場と化した。

そして触れておかなければならないのは俊輔の運動量であろう。終盤に、脚が止まった選手たちの中で、背番号25だけが、ピッチを走り回っていた。ボールを呼び込むための小さな走りを繰り返していた。チームを助け、自分をも活かす。あの動きを、狩野だけではなく、全選手が心がければ、このチームは簡単に浮上する。ただ、逆に、ピッチの中もベンチも、それをまったく意識していないところに重症の影もあるが。

とにかく、ノックアウト方式で一戦、前に進んだ。元旦に向けて勝ち進んでいくだけだ。幸い、次の試合も三ツ沢。平日の夜とはいえ、この日よりも、多くのサポーターが脚を運ぶだろう、雨が降らなければ。


今日のポイント

●自らのやり方を貫いた鳥栖。
●ぬるぬるが増していた山瀬弟。
●戦術的な工夫も必要だが、まず走る量を増やさないとダメ。

[今日の査定]勝ったってことだよ。












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