malicia witness 2階の目線2010
J1リーグ ヤマザキナビスコカップ10-11シーズン
グループB

5月29日 湘南ベルマーレ  ニッパツ三ツ沢球技場   (石井和裕)

松田直樹は、三ツ沢球技場の上空を見ていた。そこには、どんよりとした雨雲が漂い、大きく広がる未来が光の彼方に感じられるわけではない、そんな曇天だったが、彼は何事かを思いながら、大きく身体を反らして上空を見上げていた。そしてキックオフ。5分も経たずに、湘南の選手をショルダーチャージで吹っ飛ばしていた。

ただ自分自身が試合に出場することを目標にする選手が増えてしまった今、松田直樹は、数少ない、誰もがプロフェッショナルとして魅力を感じることが出来る真のプロサッカー選手だ。時に、その責任感がマイナス方向に作用し、不要なカードを審判から宣告されることも多々ある。しかし、観客を魅了する姿はひときわ目立つ。蹴る、吹っ飛ばす、叫ぶ、そして突き飛ばす・・・復帰戦の三ツ沢を支配したのは、松田直樹の強烈な個性だった。

ペナルティエリアに侵入した松田の背後からスライディングタックルが襲う。倒れる松田。笛は鳴らない。
「ファールじゃないのかよ!」
「後ろからだろ!」
「良いのか審判!そこまでOKなんだったら、今度は松田がやるよ!やっちゃうよ!」

今シーズン得意のセットプレーからのゴールが多い。

かつては「お家芸」とまで称されたセットプレー。今シーズンは、得点を多く生み出している。しかし、フリーキックからの直接ゴールが、これまでは無く、今シーズン第一号が兵藤の脚から放たれるなどとは、夢にも思わなかった。ボールがネットを揺らすと、スタンドは大きく揺れるが、一瞬にして「いいのか?」「大丈夫か?」の声。
「あのキーパー、ヤバくないか?」

最近、ゴールを量産していることもり、兵藤のプレーは、前に向かって積極的だ。なにしろ、5月は3得点もゲットしている。そして、兵藤に次いで、スタンドを沸かせたのは斉藤学。サイドから、縦へ横へのドリブルで湘南のディフェンスを切裂く。なにしろ、湘南の両サイドはザルなので、好きなようにドリブルできる。
「よし!いいぞ学。」
「ナイスチャレンジ!」
激励の声が飛ぶ。だが、ちょっとしたコンタクトプレーで大げさに吹っ飛ぶことも。
「誰だよ、学はフォワードで使うべきなんだ、なんて力説してたヤツは。」
「典型的なサイドアタッカーじゃねぇか。」
ユースの試合を観戦する一部のコアなサポーター以外は、斉藤学の本当の魅力を誰も知らない。監督が何に期待して出場させてきたのか、いっこうに解らなかった。しかし、今日、やっと解った。学は、こういう選手だったんだ、と。

小刻みにボールが回る。サイドバックから対角線上の逆サイドのスペースへ、大きなサイドチェンジのパスが出る。これは面白い。アグレッシブでありクリエイティブでもある。ボランチからのパスが縦またはディフェンスラインへ、というだけでなく、素早く横へ散らすパスが加わることで、攻撃にリズムが出来る。更には、圧倒的にディフェンスラインの裏へ送り出すスルーパスが多い。パスの出しての意識が、前節までとは全く違う。そして受け手の走る距離もタイミングも、ここしばらくは失っていたものだ。やはり、松田直樹の存在は大きい。中盤で睨みを利かせる経験豊かな選手が、他の選手たちに与える影響は絶大なのだ。

左サイドのパスを小さく繋ぎ、脚は前へ前へ。ペネルティエリ内で山瀬がフェイント。湘南ディフェンンスを崩して兵藤へパス。迷わず放ったシュートは阻まれる。
「決めろよ!」
「あ−!!!!」。
ところが、ボールが転々とするはずの逆サイドには、最後列からサイドバックの金井が走り込んでいた。ゲット!!
「金井かぁ!」
「ナイスゴール!」
「こんなに人数をかけて完全に崩したゴールって、暫く見てないんじゃないか。」
「素晴らしい!!」
「良い時間に獲ったなぁ。」

前半は2−0で終える。ピンチは序盤に2つほどあったが、あとは危なげのない展開。しかも、相手のゴールキーパーがかなり怪しいこともわかった。
「斉藤いいねー。」
「金井のオーバーラップのタイミングがいいよ。」
言葉が弾む。寒さが吹っ飛ぶ試合だ。

後半、湘南の攻めに力強さがない。田原にはボールが収まらない。いや、松田や栗原の圧力で田原が逃げている。さすがに、練習嫌いで意気地なしとして知られた男。時間が進むに連れて、トップの位置から中盤の底にまでポジションを移す。一方、両サイドバックは前がかりにいきたい。バラバラの湘南。トリコロールの勝利は、ほぼ間違えないだろう。あとは、どのように勝つかだ。

「そろそろ松田の動きが落ちてきたなぁ。」
「脚が止まってきたね。」
中盤の要のスタミナ切れで、湘南の攻勢を許す時間も。

「審判オマケしろよ!」
山瀬が湘南のディフェンスラインの裏を取り、追加点のチャンス。明らかなオフサイドだが、実に惜しい。そこで飛んだK林さんの野次が「審判オマケしろよ」だった。
「オマケしろって言ったって、明らかにオフサイドだし。」
なんてことを言っている間に、次のプレーで誤審っぽいスローインの判定。
「ほら、オマケしてくれたじゃないか!」
「確かにオマケしてくれた。」
「な、オマケしてくれるんだよ。スーパーの買い物と一緒なんだよ。」
「いや、ちょっと待て。スーパーはオマケしてくれないだろ。」

さて、終盤。2点のリードを維持しているのにも関わらず、コーナーキックにゴールを奪おうという気概が見えない。
「キープなんてするなよ!」
「得失点差もあるんだぞ!!」
ところが、キープもボール回しではなく、よりによってのコーナーキープ。
「馬鹿野郎!コーナーキープなんてするな!」
怒ったのはバックスタンドだけではなかった。ピッチの上では松田が「キープなどやめて得点を奪いにいけ」と言わんばかりに叫んでいる。さすが、プロフェッショナル。

そして、直後のプレーでゴールを奪い取る原動力になったのが栗原。ゴールライン際で強引なドリブル。素晴らしいプレーは、松田の激を聞き続けて育った男によって生まれる。ゴールの近くにまでボールを運びグランダーで渡邉へ。これをゴールに。渡邉のシュートにはいつも驚かされる。ゴールすることを忘れた臆病なコーナーキープを見た直後に、力強いゴールを見せつけられ、スタンドは総立ち。微妙な渡邉のパフォーマンスのデキを気にする者はいなかった。

三ツ沢の坂を下る足取りは軽い。
「学のいいところが初めて解ったよ。」
「強いチームとやるときに、どれだけやれるかだよなー。」
「ただ、去年とは大違いだよ。」
「ワールドカップ後のことを考えると、今日のメンバーが後半戦の主軸なんだから、もっと強くなってほしいね。」

さて、残り2試合。
「次が問題だよなぁ。」
「次は神戸のアウエーだろ。」
「敵は神戸じゃないよ。三浦だ。」
「そろそろなんとかしてもらわないとな。


今日のポイント

●90分間、存在感の大きさを示した松田。
●タイミング良く上下動を続けた金井。センスを見せた。
●キックが怪しかった湘南のゴールキーパー。
●湘南の36番は三平和司。和司でどーもすいません。

[今日の査定]お帰りなさい、直樹さま。












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