| malicia witness アジア戦記2005 | |||
| アジアチャンピオンズリーグ 3月9日 山東魯能秦山 石井和裕 試合開始前には長蛇の列が当日券売場にできた。ホームゴール裏はほぼ埋まり、バックスタンドも中央部は上段までの客の入り。激戦の90分間で、勝ち点を得ることはできなかった。試合後に、うつむく選手達を迎えるスタンドは、ゴール裏からもバックスタンドからもコール、声援、歌が鳴りやまず、誰もがアウエーでの雪辱戦を誓った。最悪の勝ち点0ではあるが、どこか、表情に明るさがある。そう、それは、アジアの頂点に再び立つための闘いを、皆が、待ち望んでいたからだ。やっと、熱い思いが戻ってきた。かつて2年連続でアジアを制し、アジア各国に、その名を轟かせた私たちのトリコロールは、私たちと共にスタートを切ったのだ。 「でかい!」 「デカイなぁ中国人。」 「しかも、ジャージは読売ジャイアンツっぽい色。」 「審判は韓国のセットらしいよ。」 近づいてきたディドに声をかける。 「もう達也じゃなくていいだろ!哲也でいってみろよ、今日からは!!」 ディドは親指を突き上げ、ニッつと笑った。おそらく通じていない。単なる自分への声援と勘違いしている。 「どうも、ルーマニア人がいるらしいよ。」 「おっ、あいつっぽいな。」 「ドゥー・ユー・ノー・チャウシェスク?」 「ドゥー・ユー・ノー・ゴールデンパレス?」 そもそも、ルーマニア語でチャウシェスクは『チャウシェスク』なのか、黄金宮殿は『ゴールデンパレス』なのかわからない。とりあえず言ってみる。 今日、私たちは最前列に陣取る。 山東の事前情報は、ほとんどない。不安と期待が高まる中でキックオフ。いきなり右サイドをダイレクトパスで突破される。 「巧い。」 「なかなかやるじゃないか。」 緊迫感がやや上昇。 序盤で得点できたはずだ。 最初の10分は重要だった。マークのズレが目立つ山東は、よりによって奥を再三フリーにする。ゴールまで門を開けてフリーにしているのだ。だが、的確なボールがおくれず、また奥自身もコントロールミスをして、せっかくのゴールへの一直線をムダにする。 真の実力差は15分で分かることだ。 早いボール回しをすれば、山東のディファンダーは後手に回る。右サイドは上がってこない。ボールを支配し、クサビを入れ、サイドへ展開する。すでに、山東は対応策を失い、ファールで潰す。A3カップの中継で見慣れているから免疫は十分だ。 「てめぇ汚ねぇぞ!!」 と、叫びながら、心の何処かでは「よし、ケガしない程度に倒しに来い。そのうちセットプレーで得点できる」という計算が立つ。最初のうちは競り合いに弱さが感じられた大島だが、バックスタンドの「競れ!!」「遠慮するな!」といった声援が届いたのか、それとも、単に慣れなのか、ハイボールの競り合いも勝てるようになってくる。すると、またファールだ。 昨年の城南戦ほどではない。だが、国内の試合よりも厳しいチェック。激しいボディコンタクトと大きな長い脚の圧力が、ボールコントロールを狂わせる。最初のワンタッチが決まらない。だから、次の一歩が出遅れる。 「もっとピシッと止めろ!レフリーのポマードみたいに!!」 入りそうで入らない。 上野のシュートがクロスバーを叩き、跳ね返りを狙った那須の素晴らしいシュートもディフェンダーに跳ね返される。タッチライン間際の三ツ沢のバックスタンドが揺れる。圧倒的な攻撃の連続。怪我人が多い苦肉の布陣とは思えない。ドゥトラの技と清水のスピードは山東を混乱に追い込む。 「おい!25番!!お前、さっきからボールに触っていないだろ!!」 ワールドカップ予選の北朝鮮ゴールキーパーを彷彿とさせる山東ゴールキーパーのハイボールの処理は、ますますゴールを予感させる。 さらに荒れる。 清水が後ろから蹴られる。その前から奥は29番の挑発を受ける。乗る必要はないのだが、奥は下がる29番に付いていき、激しく言葉を交わす。ゲームに参加していない。結局、奥と29番の双方にカードが出される。韓国の審判団は、比較的、国際ルールに忠実にコントロールしようとしてくれている。 今度はドゥトラが10番に倒される。怒るドゥトラ。すると10番が逆ギレ。 「てめぇ、なに怒ってんだ!!」 「てめぇがいけないんだろ!!」 騒然とする中、ドゥトラと10番の間に栗原が割って入って事なきを得る。 「こら10番、てめぇ栗原に止められるなんて最低だぞ!」 前半終了間際には、久々の『百姓一揆』。 山東も左サイドに10番が流れて攻撃してくる。ドリブルと山なりの体力勝負を織り交ぜて、まったくスマートさはないが、体力に優るだけに、スタンドに悲鳴が起きる。だが、ここでボールを奪い一気のカウンター。しかも、5名が駆け上がる。 「左!!左!!!」 「ドゥトラ!!」 「出せ!!出せ!!!」 一気に声援が叫びに変わり絶叫の中でボールが前へ。 「来た!!」 惜しくも得点にならなかったが、これは、いわゆる『百姓一揆』というカウンターだ。 「惜しかったぁ。」 「直接ねらえ!!あいつ取れないぞ!!」 しかしシュートは枠の外、もしくは正面。ゴールが奪えない。 ハーフタイム。一応、お約束のボケをカマス。 「各地の途中経過出してくれ!」 「深せん、どうなったぁ?」 「ロンドンはぁ?」 「トリノはぁ?」 私たちはアジアの頂点を経由してクラブ世界一に繋がっているのだ。世界は同時に動いている。 さて、後半だが、入り方が悪い。中澤がボールの処理を誤りコーナーキックを許してしまう。一気呵成に攻め込んで先制点がほしかったのだが、後半は前半とは違った展開になってしまう。攻め合いだ。 29番が中西と軽く接触する。試合は動いている。トリコロールは攻める。遠く一人残された29番は座ってアピールしている。倒れているのではない。座っているのだ。主審が立てと指示するが立たない。接触はあったが、大したことはないはずだ。29番は脚を見ろと言っている。しかたなく主審は担架を要請して外に出すことにする。 「担架こっちだ!こっちに来い!」 バックスタンドからたくさんの声が飛ぶ。こちら側が、やや近い。担架は希望通り、こちら側にやってくる。さぁ、待ってました、だ。 「担架、こっちだ!俺の前に来い!」 「そんなに、見せたいなら、俺に見せてみろ!」 「じっくり見てやるぞ!!」 バックスタンドにとっては、飛んで日にいる夏の虫だ。すぐに29番は立ち上がる。中へ入れろとアピールする。主審は、それを許さない。ハーフウエーラインから入れという。29番はタッチラインの外を小走りに進まなければならない。バックスタンド前でのさらし者だ。近づいてくれば罵声が飛ぶ。 「こら、痛いところ見せてみろよ!」 「中にはいるな!こっちに来い!!」 29番は中国代表らしく、気にも留めずに・・・ではなく、明らかにいらだっている。小走りだが、3歩くらいずつ、ちょっと外を向く。そして視線をバックスタンドに流して唾を吐く。それを繰り返していく。 「上等だ!コソコソやるな!こっちに来い!!」 こっちにくれば、しめたものだ。巧くいけば退場。手でも出してくれば数ヶ月の出場停止に陥れることができる。左の頬を突き出す気持の準備までして挑発する。だが、29番はフィールドに戻っていってしまった。 この直後に大ピンチ。エアポケットにハマル。リスタートがニアに流し込まれる。間一髪で哲也が止める。後半は連携が怪しい。後半は立ち上がりからペースが掴めていない。今度は逆襲の番だ。ハユマが右タッチ際で相手をかわして一気に前へ。クロスを入れると、ゴール前にはフリーの奥。だが、ワンタッチ目が少し前に流れたところをさらわれてしまう。次は山東の攻撃。ディフェンス陣が一瞬譲り合ったところにドリブルで切り込んできて哲也が2度目の一対一を止める。攻め合いが激しくなる。トリコロールのカウンターは2本連続のオフサイド。互角になっている。 中国人選手とは役者が違うドゥトラの演技。 ほとんど接触はなかったが回転しながらドゥトラが宙を舞う。悪い流れを断ち切る芸だ。狙い通りにホイッスルが鳴る。怒った山東の選手がボールを蹴り出してカード。 「さぁ、どんどんこい。これでこそ中国との試合だ。」 「気を抜くな。身体張っていけ!!」 ここがトリコロールの時間だった。サイドに起点を作って組み立てられる。左に流れた上野がゴールに向かって飛んでいくクロス。大島の頭には、惜しくも届かない。ボールボーイが山東のゴールキーパーにボールを投げ入れるが、山東のゴールキーパーは、これを蹴り返す。またカード。 その後のスローインでは、25番が後ろを向いて至近距離に立っている奥にボールをぶつける。カードが乱発され、スタンドが騒然とする中で、トリコロールがゴールに迫る。中盤でファールを素早く右に振ってリスタート。これは、ボールが止まっておらずやり直し。今度は左のドゥトラがフリーになりボールを受ける。美しく弧を描くクロスは、逆の右サイドから進入していたドフリーのハユマに。 「やった!!」 しかし、ヘディングシュートは枠の外。 ついに乱戦の主役に火が着いた。 突然、ボールから離れたところ、バックスタンドの前で栗原が左アッパーカットを10番に命中させた。見事にヒット。10番は倒れる。目の前でのクリーンヒットにバックスタンドは言葉を失う。だが、それは一瞬。すぐに、皆が騒ぎ始める。 「こら10番!何倒れてるんだ!!」 「何もないのに倒れるな!!」 「どこが痛いんだ!言ってみろ!」 「立て、この野郎!!」 審判には気づかれなかった。10番は立ち上がると、スローインしようとするハユマに近づき、とばっちりの肘打ちプチ報復。今度は上野が10番に猛烈なスライディング。報復の連鎖。トリコロールの時間は終わり、やや冷静さを失う。このころになると、味方への声援、山東への挑発に加えて、無関係なことを長い時間騒ぎ出すバカがしゃしゃり出る。尖閣列島がどうのこうのなどだ。振り向いてスタンド内の、そのサッカーの敵にキレる。敵は山東だけではない。激しい試合だ。数名で起きた蒋介石コールは、まず間違えなく中国語ではショウカイセキとは読まないはずなので、妙に笑えた。 焦りのせいか、哲也が久々の登場のせいか、一昨年も見られたので原因は同じなのか、ディフェンスラインと哲也の間で譲り合うシーンが起きる。そしてコーナーキックからの失点。 「まだ時間はある!攻めろ!!」 ところが、意外なことにキックオフを後ろに下げてしまう。落ち着こうとしたのかもしれないが、一気の反撃の気配がない。そして、オフサイド崩れで大ピンチ。この時間の那須はボールを後ろに下げるばかり。 「前だ!前で勝負だ!!」 「縦に勝負しろ!絶対抜けるから!!」 「負けるな!ビシッとやってみろ!!」 コール、声援、目の前の山東選手へのブーイングと罵声。止まることなく声を発し続ける。ゴールは生まれない。絶妙のクロスを大島はトラップするがゴールキーパーの前へ。良いボールは入るのだが、山東のディフェンダー陣は大きいだけでなく迅速な対応がとれるスピードも兼ね備えている。 山東はトリコロールを研究してきた。 リードを奪って、やっとその成果がではじめたのか、清水の切り返しや大島のとラップは読み切られる。哲也がボールを掴めばグラウ戦法でつきまとう。かなりの準備をしてきている。そんなムードでミスが出る。左サイドの中澤がサイドチェンジをしようとして中央の29番にプレゼント。シュートは哲也が横っ飛びで押さえる。マズイムードだ。 「動け!」 「時間無いぞ!」 バックスタンドも苛立ちの野次に変わる。 そんなとき、ゆったりとしたパス回しから清水の前にボールが出る。山東ディフェンス陣のミスも絡んで清水は突破。後ろから倒される。 「PKだ!!」 「赤だ!!」 「やった!!!!」 だが、赤でもPKでもなかった。黄色のみ、直接フリーキック。ペナルティエリアの外判定だ。しかも、しかもだ、キッカーの位置に栗原が立っている。 「頼む!奥!!」 「奥かドゥトラ!!」 その願いは裏切られ、栗原の可能性のないシュートはディフェンダーに当たり、跳ね返ってくる。絶好の得点機をまたもや逸する。清水は、ここで山崎と交代。 残り10分からが、本当の勝負だ。 山東のベンチ前での出来事。ボールボーイが入れたボールを10番が止めてタッチラインに置く。蹴り出したわけではないが、主審は、それを遅延行為と取った。二枚目のカードで退場。これには山東ベンチ、選手、ベンチ裏に陣取った10名ほどのサポーターも大荒れ。退場になる10番も、何ごとか叫んで押し出されるように抱えられてフィールドから外に出る。すると突然、29番がベンチの前で倒れる。顎を突き出して後ろに。ちょうど、とんねるずが昔、貧血ネタで倒れるときのような見事な倒れ方だ。顔と腹を押さえている。 「おいおいおいおい、誰も近くにいないぞ!!」 「そこで殴られたとすると犯人はベンチだぞ!」 「脳溢血か貧血だぞ!」 とにかく、近くにトリコロールの選手が誰一人いないのだ。 中継を見ると、あまりの大根役者ぶりに主審は笑っていた。 フィールドからは1人の選手が消え、ゲームは再開。すぐに山崎が得意の突破を仕掛ける。いつものようにシュートのタイミングを失って、どん詰まりでボールを失う。だが、この突破が、トリコロールに勢いを与える。中国のチームとヤルからには、退場者が出てからが勝負だ。 「さぁ行け!!」 「イッキに行け!!」 「何が何でも獲れ!!」 「勝負だ!」 両サイドからアーリークロスが繰り返し放り込まれる。大島、上野、中西らが競り合い、シュートへ持ち込む。先ほどまで弱気なボール回しだった那須も見事な展開を演出する。だが、ゴールが奪えない。絶対的な決定機を、山崎が、奥が外してしまう。それでも攻める、一方的に攻める。スタンドも休むことはない。ドゥトラの大宇宙開発の後に表示されたロスタイムは4分。なおも攻める。迷いはない。両サイド、ハーフウェーライン付近からクロスを入れる。大きな山東ディフェンダー陣に負けることなく競り勝つ。 だが、試合は負けだ。大切な直接対決で、勝ち点を3失ってしまった。 試合後に三ツ沢の坂を下りながら考えた。いくらなんでも、この山東が残り試合を全勝なんてことはないだろう。きっと、この組はもつれる。チャンスは十分にある。磐田敗戦の報が入る。テロサーサナも負けていた。カギを握るのはテロサーサナ戦だ。バンコクのホームゲームでは脅威の強さを発揮するはずだ。3チームがもつれれば、最終節に決着は持ち越される。1位抜けしかできない、世界でも最も厳しい国際クラブ選手権リーグだ。 「うちは最終節がマッカサルだから助かる。」 「山東はバンコクでテロとやるはずだ。」 「そりゃぁ、うちが有利だろ。」 「同時キックオフだよね。」 「20時キックオフとかかな。」 「バンコクと時差って2時間だっけ?」 「こりやぁ19時キックオフ死守だろ。」 「バンコク17時か。まだ暑いな。山東は不利だ。」 「雨期だからスコールがあるかも。」 「いいねぇ。」 「テレビ朝日の放映料で絶対死守だ。」 「まだ手ぬるい。勝つためならば17時キックオフでもいいぞ。」 「バンコクは15時なら、まだかなり暑いだろう。」 「放映料上積みしてでも勝ちにいってほしい。」 「こうなりゃ、最後は金で勝負だ!」 |
|
| confidential 秘密 | message 伝言 | photo&movies | reference 参考 | witness 目撃 |
| scandal 醜聞 | legend 伝説 | classics 古典 | index | LINK |