| malicia witness アジア戦記2005 | |||
| アジアチャンピオンズリーグ 4月20日 テロサーサナ 石井和裕 「今日は得失点差を稼がなければならないな。」 「奥、那須、松田、ドゥトラを使わないために、前半でリードしてほしいよ。」 「前半でリードして、ケガ上がりのジョンファンと坂田も下げてほしいな。」 「ということはツートップは?」 「北野とアデマールだ!!」 再三にわたりゴールキーパーの巧守に阻まれて均衡は破れない。 歓声とため息が交互に吐き出される三ツ沢球技場に降りしきる雨は、快勝の期待を胸に平日の夜にそれぞれの仕事や都合を調整して訪れたサポーター達の気持を湿らせる。雨に流されるわけがない。だが、信じる気持の中にも不安は誰も隠すことはできない。不安がないと断言する人がいるとすれば、それは強がりのポーズ。時として強がりのポーズは必要だ。特に、フィールドで闘う選手達にとって、それは必要不可欠だ。そして、スタンドの私たちにとっては、ポーズよりも手拍子や声援で、その闘いに参加し続けることが、もっとも安易でかつ大切な不安から逃れる方法なのだ。 タイのクラブチームはアジアのカップ戦では強さの歴史を残している。 かつて、アジアクラブ選手権ではファーマーズバンクは連覇している。日本のクラブが勝てなかったアジア・アフリカ・クラブ選手権を制したのも彼らだ。しかしテロサーサナはこのチャンピオンズリーグでは勝ち点は0。ホームゲームを、突如、バンコクから郊外に移し、試合開始時間も平日の昼間。それは、ひっそりと行われた。補強されたはずの南米の選手達も監督もいない。一昨年の強さは、彼らと共に、どこかへ逃げた。エースはSリーグへ去った。あのとき鹿島との一次リーグでは、かなりの観客がスタンドを埋めた。決勝戦ではスタンドを埋め尽くした。それは過去のこと。今日、フィールドに立つ選手達は若い。最年少は、わずかに16歳。 「ヤバイ。」 「スリッピーだし、ゴールまでは何があるかわからないぞ。」 「よし!」 「決めろ!!」 立ち上がって息を止める。一瞬の間をおいて、飛沫は下から上へ。わき上がり飛び跳ねるトリコロールのスタンドは肩や頭上に溜まった雨水を紙吹雪の代わりに歓喜のシャワーとして飛び散らせる。ジョンファンのヘッドをオフサイドギリギリで受けた坂田は、ドリブルでゴールキーパーと一対一に。右脚を素早く振り抜き、ボールはゴールに吸い込まれる。さすがのマナも、このタイミングでのシュートを止められない。坂田は日産伝統の「レナト」を決めた。 後半が始まる。イッキの攻勢に水を差す、試合開始前の選手紹介で「榎本哲也」と紹介された榎本の判断を誤ったプレー。膝で蹴ったボールは、危うく大ピンチを招くところだった。だが、次のプレーはテロサーサナのファールスロー。運が味方してくれている。 テロサーサナは前へは来ない。 それは、彼らにとって勝利が重要ではないからだ。国内リーグは降格の危機。そんな中でのチャンピオンズリーグは若い選手が多い。試合終了後に、中澤とのユニフォーム交換を希望した。アジアのスーパースターと同じフィールドにも立てる。前で出てくるテロサーサナからカウンターアタックで得点を量産する望みは、今日は期待できない。彼らは普通に守っている。その隙間を通す原のスルーパス。そして枠を襲ったヘディングシュート。原の2つの攻撃がトリコロールに流れを呼び込む。 「さぁ、もう一点だ!」 ところが、その勢いが突如断たれる。右サイドでの攻撃に、なぜか投入されるもう一つのボール。ビリヤードの四つ玉のように、2つのボールは緑のフィールドで呼び寄せ合うかのようにぶつかる。 「おいおい!ボールボーイにタイ人がいるぞ!!」 思うようにいかない。膠着状態に。 せっかくの流れは切れて、建て直しを計る。ここで、慎重になり、ボールは、上野、熊林、栗原から、なかなか離れない。中西が攻撃のテンポを速めようと、バックラインで回すボールをダイレクトで捌くが、一度止まった流れを取り戻すにはカンフル剤が必要だ。そこで上野がロングシュート。上野も中西も気が利いている。 再びチャンスが来る。 上野のシュートで展開が変わる。今度は判断の速い大橋のシュートだ。またしてもマナがファインセーブ。入ったかに見えた弾道をフィールド外へ弾き出す。しかし、アジアのスパースターが決める。コーナーキックからニアサイドに入って、見事にネットに突き刺した。 「美しい!!」 「またジョンファンが決めた!!!」 「さぁ、もう一点だ!!!」 やっと2点目が入り、勝利から得失点差に興味が移る。 だが、大きな膠着状態に入る。テロサーサナにファールが増え、プレーが流れない。ここで、岡田監督はアデマールを投入。試合を止めるわけにはいかないのだ。 「おっ、ついに来たぞ。」 「アデマール、決めてくれ!!」 「得点したジョンファンを下げるのは理想の交代だ。」 アデマールの最初のプレーはオフサイド。だが、すぐにチャンスが到来する。ペナルティエリア内で囲まれながらも切り返してシュート。またしても、またしてもマナがファインセーブ。 「惜しいぞアデマール!!」 「なかなか良いぞアデマール!!」 「止めるなバカ野郎!!」 「去年のゴールを返せアデマール!!」 「あいつ足首柔らかいなぁ。」 「あ、誰か出てきたよ。」 「ちっちゃいなぁ。」 「北野だ。北野が出るぞ。」 「ということは・・・。」 「ついに、北野とアデマールのツートップ。」 まったく、岡田監督の選手交代には澱みがない。 「この二人で点が獲れるのかなぁ。」 「何言ってるんだ。去年は二人ともチャンピオンズリーグ要員だったんだぞ。」 「しかも、二人とも得点しているじゃないか、チャンピオンズリーグで!」 攻撃は右に偏る。日本有数の右サイドアタッカーで、トリコロールにおいて最もプロフェッショナル名パフォーマンスをコンスタントに魅せるハユマが、再三の突破を魅せる。そして、後ろにボールを下げる上野には 「上野、前だ!前!」 と大きな声でクレーム。テロサーサナはファールでしか止められない。もらったフリーキック。一人二人とボールから離れていく。残ったのはアデマール。 「アデマールが蹴るのか?」 「どんなボールを蹴るのか?」 「最低でも枠には飛ばせよ。」 直後、三ツ沢球技場は重く大きな呻りが破裂する。 「うぉ〜〜〜〜〜〜。」 予想を超えるロベルトカルロス系の弾道がゴールに一直線。マナが弾く。 「凄いぞアデマール!!」 左を活性化するために、今度は後藤を投入。岡田監督は膠着状態を許さない。一方のテロサーサナは、残り時間1分になって交代。 「お前ら、想い出づくりに入ってるんじゃないよ!!」 トリコロールに、そんな余裕はないのだ。 「休むな!!」 「もう一点獲りに行け!!」 岡田監督も中澤に前へ行けと指示を出す。 快勝といえるかは微妙な評価だ。だが、気の緩みのない緻密な試合運びができたことは評価できる。休みが必要な選手には、十分な休養が与えられた。だが、得失点差で稼いだのは2。次の山東との直接対決で必要なのは2得点以上を奪っての勝利だ。私たちの仲間達は、来月、文字通り命がけの闘いで海を渡る。 |
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