| malicia witness WM2006惨敗記 | |||
| 3_フランケンワインでオーストラリア戦を語る。 ドイツへ行ったことがない人でも「ロマンチック街道」という名称は聞いたことがあるだろう。有名なシュバインシュタイン城をはじめとする古城や、教会の数々は、日本人に人気の観光コースとなっている。まさにロマンチックな見所がたくさんだ。だが、ドイツ人達は、この「ロマンチック街道」という言葉を知らない人が多いのだそうだ。道ばたに書いてある標識も「ロマンチック街道」と、カタカナと漢字で書いてある。どうやら、この名称は外国人(主に日本人)向けに作られたのだそうだ。「ロマンチック」は「ローマ人」「ローマ時代の」という意味なのだ。そんなネタばらしをしているガイドブックはほとんどない。「ロマンチック」な言葉の響きに引き寄せられるように、日本人がたくさん、この街道にやってくる。 ローテンブルグへ向かう。あまりテンションの上がらないバスツアーだ。同行するのは年配の女性が多い。静かにアウトバーンを走り、曲がりくねった道が田園風景を通り抜ける。ちょうど、そうだ、富良野を数千倍にしたようなスケールの風景を想像してもらうと良い。目指すローテンブルクは城壁に囲まれた中世の街並を擁する小さな街だ。 テンションが上がらない理由は単純なこと。ここに参加しているご婦人方、全員が、オーストラリア戦の逆転負けの衝撃から、まだ立ち直っていないのだ。美しい街並を眺めながらも、会話は弾まない。 昼食にフランケンワインを飲む。フランケンワインは、ここフランケン地方の辛口のワインだ。日本ではドイツワインの人気は高くなく、かつ、高級な部類に入るフランケンワインを飲める機会は多くない。私は20歳の頃、サントリーの試飲会で飲んだフランケンワインの味を覚えている。そのとき飲んだ多数のワインで、最も口に合う味覚だった。そのフランケンワインを、このフランケン地方で口に出来る喜びは、小学生のときからの憧れの地・ポンペイを訪問したときの感慨に近い。また夢を一つ実現した ワインの助けも得てか、ご婦人方の口の動きも、やっと重しを取り外す。 「ほんとガッカリなのよ。」 「なんで、あのとき、気を抜いちゃったのかしら。」 会話から知ったことは、日本でテレビを見た印象とは大きく異なっていた。ペースを押さえて闘っているように見えた日本代表は、実は脚が止まっていた。前がかりになって失点したように見えた3点目は、実はフィールドもスタンドも、一斉に気を抜いた瞬間だった。彼女達の証言で、あらためてテレビ観戦の限界を知る。 フランクフルトへ戻るバスの横を走るオープンカーにはクロアチア国旗がなびいている。 「さっきから嫌な感じなんですよぉ。」 ご夫人の一言。 そのクロアチア国旗のクルマは、曲がり角を曲がってしまい、姿を消す。代わって現れるのはポルトガル国旗をつけたクルマ。クラクションをけたたましく鳴らし、ハイスピードで中心街を走り抜けていく。 「あの運転のしかたからすると、どうやらイランは負けたようですね。」 この近くに、ファン・フェストの会場があるようだ。 荷物をホテルに置き、日本サッカー後援会のリュックを背負って日本人とわかるようにしてファン・フェスト会場に向かう。幸運にも、ホテルの脇のマイン川の川縁を歩いていけば、15分ほどで着く距離だ。マイン川の両側には、各国料理の屋台が並び、フェスティバルの様相となっている。勝ったポルトガル人の表情は明るく、イラン人は元気がない。見ると、フランクフルト市外中心部からも、試合が終わったというのに、このファン・フェスト会場へ、ポルトガルやイランのユニフォームを着た人々が沢山集まってくる。彼らは、先ほどまでスタジアムで応援をしていた人たちだ。祭りの続きをファン・フェスト会場で楽しもうというのだ。大型ビジョンで観戦した人々がスタジアムで観戦した人々を迎え入れる。そこでスタジアム内の様子を聞き出す。興奮の第2幕・アフタースタジアムパーティがビールを片手に始まる。 このファン・フェスト会場は、日本とは違って無料。ドイツ代表以外の試合も全試合上映している。試合の合間にはDJが盛り上げ、プレゼントタイムがステージで催されたり、みんなの大声に反応して画面のCGがPKを蹴るPKゲームに、みんなで歓声を上げたり、エンターテイメントに事欠かない。DJの選曲が絶妙で、イタリア登場の前には「イタリア90」のテーマ曲をかけたりする。すると、イタリア人達は、みんなで大合唱だ。しかも、会場に入るのに、スタジアム並みの厳重なボディチェックを受ける。入場に時間はかかるが、会場内の治安は極めて良いので、安心して楽しめる。この発想だけは4年前に日本にも韓国にもなかった。これは負けた、と思った。 とんでもない巨大画面に大音響。素晴らしい臨場感を受けて、あらゆる国の人々が、このパーティーに集まってくる。例えば1980年代の名選手「エルケーア」の名前が入った赤いシャツを着込んだデンマーク人だったり。 試合を見ていると、髭が白く染まったドイツ人に声をかけられる。 「いつ試合だ。」 「明日だ。明日は、私たちにとって、とても大切な試合だ。」 「チケットは持っているか。」 「持っている。その次のブラジル戦のチケットも持っている。」 「そうか、それは良いことだ。幸運を祈る。」 交換用に持ち込んだマフラーを2点、彼の子供達にプレゼントした。 23時。フランクフルトの中心街にはイラン人達が沢山集まり「イラン!イラン!」と叫んでいる。国旗を振りかざし、飛び跳ねながら、自分の国の名前を連呼する。敗れたとはいえ、彼らにとって、今日はイランをアピールし、自分がイラン人(ひょっとすると何割かはドイツに帰化した人もいるはずだ)であることを確認する。ワールドカップは、闘いの場であると同時に、そんなパーティー会場でもあるのだ。 石畳の道を歩いていると、3人組の男に呼び止められる。 「日本人か?」 「そうだ。君たちは、何処から来たの?」 「セルビアモンテネグロだ。ピクシーの。ストイコビッチのだ。」 「あぁ、ストイコビッチは素晴らしい選手だね。」 「日本は明日勝ってくれ。クロアチアをやっつけてくれ。そうすれば、全ての人が幸せになれるから。」 「ありがとう。日本は3−0で勝つよ。」 そんな、無理矢理の理由で勝ってくれと言われたが、それでも嬉しいものだ。 明日は、いよいよクロアチア戦だ。 ![]() 大きな船が通ると巨大画面も隠れる。数多く通るのはオランダ船籍の貨物船。ちょうど選手入場のときに通る船は、なぜか船員達が用意周到に持参した国旗を振って甲板で飛び跳ねていたりする。 next |
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