| malicia witness WM2006惨敗記 | |||
| 4_灼熱のニュルレンベルク裁判。 ドイツの毎日は暑く汗で着替えの買い足しが必要となる。幸い、街にはワールドカップのディスカウント品が溢れ、物価の高いドイツでも手頃な値段で着替えを手に入れることが出来る。 フランクフルトからニュルレンベルクまでは、やや距離がある。途中で休憩を入れながらアウトバーンを飛ばす。途中のサービスエリアでは日本人とクロアチア人が混在の大混雑。クロアチア人には「グッドラック」と(心にもなく)告げて握手する。それが、ワールドカップのスタンダードだ。握手するたびに思うのだが、クロアチア人の手のひらは、恐ろしく分厚い。日本ではあり得ない厚みを、握手のときに感じる。サービスエリアで出会うのは、日本人が圧倒的に多い。大型バスでの移動も多いようだ。しかし、その表情には、サッカーの祭典でハシャグ色がない。誰もが、オーストラリア戦のやるせないエアポケットの話を聞き、一抹の不安を感じながら、ニュルレンベルクへ向かって行くのだ。 スタジアムは中央駅から十数分をクルマで移動したところ、森の中にある。途中、市街で、赤と白のチェッカーにボディを彩ったクルマがレッカー移動されるのを目にする。中央駅前には、青い人々、赤い人々が入り交じり、決戦気分を醸し出す。特に、この街は、古い城壁に、今も囲まれているということと、有名な「ニュルレンベルク裁判」という響きが、荘厳な決戦ムードを更に盛り上げる。 広い森の湖のほとりの道を歩き、スタジアムに向かう。厳重なボディーチェックは、スタッフ一人一人の知識に、その基準が委ねられているため、「KIRIN」という文字が「企業名」として没収になる人と、何も気が付かずにノーチェックになる人と、不公平は茶飯事だ。スタジアムが近づくにつれて、クロアチア人の数が圧倒的に多く感じる。日本人の数は大人しく、しかも、いつもはスタジアムで応援などすることが少ない客層であることは明らかだ。 スタジアは、予想よりも小さい。特にメインスタジアムの客数は、おそらく三ツ沢球技場と同等くらいしかない。スタンドの端には空席も目立つが、全体に、かなり埋まっている。テレビカメラは日系(もしくは日本人)の男の顔を捉える。彼は日本サポーターを煽る役割を演じている。マイクを使ってのパフォーマンスだ。 「エイ、エイ、オー!」 「エイ、エイ、オー!」 スタンドにいる日本人が、彼のかけ声に合わせて一斉に叫ぶ(あまりに繰り返すので、徐々にしらけていくが)。次に、クロアチア系(もしくはクロアチア人)が現れて、やはり、何事かかけ声をかけて、クロアチア人達が叫ぶ。強い直射日光の下で、両国のサポーターは気勢をあげる。 座席はバックスタンドのクロアチア寄り。広告看板でタッチラインが見えるか見えないかという高さだ。すぐ左はクロアチア人が密集するコーナー付近。右側にもクロアチア人の集団がいて挟まれた状態だ。圧倒的に不利な座席で応援しているように思ったが、後で写真を見てみると、右側のクロアチア人は意外と少人数だった。だが、それでも、野太い声に圧倒される。青いゴール裏からの声も、バックスタンド中央からの声も届かない。 「ニッポン!ニッポン!」 声を張り上げる。 残念なことに、声はなかなかまとまらない。理由は2つある。1つは、声がまとまらないとわかると、声を出さずに大人しくなってしまう人が多いこと。2つめは「ニッポンコール」のテンポに慣れていないこと。代表の試合に数試合行ったことがある人ならばわかるが、今の「ニッポンコール」は、バレーボールなどで今も使われているクラシックな「ニッポンコール」とは拍手の叩き出しが微妙に違う。さらには、猛暑の中の試合なので、ゴール裏のコールはゆっくりとしたテンポで、試合のオーバーペースを戒めるかのようにうたれている。だが、バックスタンド(かなりの座席はプレステージチケットだ)の日本人達は、慣れていないために、自らが焦り、コールのペースが上がりっ放しだ。だからバラバラになる。だが、バラバラになっても止める必要はない。応援は「ファッション」ではないし「アクション」が評価されるわけでもない。重要なのは「パッション」だ。だから続ければ良いのだ。途中で止めた人は、試合後に、きっと後悔するに違いない。だから、私は、声を張り上げ続けなければならない。後悔する人が1人でも少ない方が良い。だから少しでも声を届ける方法を知っている私は、声を張り上げる。 試合はスローペースで始まり、スローペースのままに終わる。日本は、勝ち点3のために、勝負をかけることなく終わる。試合終了のホイッスルの瞬間に静寂。そして、クロアチア人達のブーイング。ただ、すでに彼らは怒っており、後半の途中からは発煙筒の煙でフィールド上を霞にかけていた。試合途中に大型ビジョンは「1998年のワールドカップでは対戦し、スーケルのゴールでクロアチアが勝ちました。」という豆知識を試合中に表示(余計なお世話だ)していたが、クロアチアは、予定していた日本からのゴールを奪うことが出来なかったのだ。 「勝てた」とも「負けなくてすんだ」とも、どちらとも言える。ただし、初戦のオーストラリア戦の結果が出ているだけに、勝ち点3が獲れなかった痛い試合が妥当な評価だ。本来であれば、欧州で開催のワールドカップで欧州のチームから奪った初の勝ち点試合として記念されるべきものだったのだが。 この試合で印象に残ったポイントはいくつかある。まず、中村俊輔の状態は非常に悪い。彼を使うこと自体が信じられないような病人の足取りだった。逆に、中田の頑張りが目立つ。川口のファインセーブは唯一の見せ場だった。中沢は、終盤には前に上がって得点への意欲を見せたが、チーム全体の士気は上がらなかった。そして、もっとも印象深かったのは宮本だ。PKを与えたミスはもちろんだが、いろいろな選手から何度も何度も怒鳴られ、反論できない姿は哀れ。右からのクロスに対応せずに下がってしまい、全速力で戻ってきた中田が間一髪でボールを押さえ込んだとき、川口は、宮本を指差しながら猛然と走って向かって行った。その口は「お前が行け!!」と叫んでいた。 「納得いかないよ。」 「なんで攻めに行けなかったんだよ。」 「何言ってるの。オーストラリア戦よりは数倍マシだったのよ。」 試合後に交わされる言葉の数々。柳沢が決定機を外したことを批判する人が多かったが、私は不思議と気にならなかった。 「だって、柳沢のいつものプレーからすれば、特別に酷いプレーをしたわけじゃなかったじゃないですか。よくあることですよ。それを承知で監督は使っているのだから、柳沢を責めてもしょうがないでしょう。」 その夜に、とあるレストランで開かれたパーティーで、あるベテランミュージシャンは、こうスピーチした。 「言葉は悪いですが、硫黄島のように玉砕する覚悟でやれ!」 出席者からは「そうだ!」「そうだ!」「男を見せろ!」という声があがった。 「ブラジルには3点差で勝つんだ!」 あらゆる会話は、そう締めくくられ、 「一次リーグ突破のために、できること、それは応援だけしかない、だから応援しよう。」 と、誰もが口にした。もはや、采配やシュートミスを裁判にかけるような余裕は、私たちには与えられていなかったのだ。 ![]() 厳つい顔のおっさんが集まるクロアチアのゴール裏。中には1人取り囲まれてサムライブルーのユニフォームを着込んだ日本人が混じっている。 next |
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