malicia witness FIFA女子ワールドカップドイツ2011
独りで始める闘い。



メインスタンドで、私は4年前と同様に熾烈な闘いを挑むことになった。たった一人で挑む闘いだ。4年前同様、私が自らに課したテーマは、いかにドイツ人をなでしこの応援に参加させるか。ドイツ人の多くは日本びいきだということを聞いていたものの、声を出して、なでしこに声援を贈ってくれるとは到底思えないからだ。ただ、応援といっても、コールやチャントに参加してくれるはずは無い。それでも、拍手、手拍子、歓声、ブーイングなどで、少しでもドイツ人がなでしこに傾く空気を作ってくれれば、それはプレー環境の改善に他ならないと考えた訳だ。大勢の日本人が一塊になって応援することが困難なワールドカップにおいては、小さな活動の積み重ねが、選手達のプレー環境改善に役立つと私は考えている。

まず行なったのは、スタジアムないでのプチ買収。ここでの武器は安いもしくはタダで手に入る日本グッズだ。今回多用したのは成田空港で無料配布していた青い団扇。これを、いくつかいただき、スタジアムに持ち込んだ。そして、自分の席の周囲の同一人家族のうち、女性と子供に絞って配布。日本人への好感をさらに植え付けることが狙いだ。

次は目立つこと。幸い、今回は着物を着ることが出来たので、着物に日の丸のセンスという衣装と小物を活用した。まるで、どのワールドカップにも必ず姿を現すポンチョにソンブレロのメキシコ人のような出で立ちだ。スタジアムの通路を歩いて自らの存在を知らしめる。席についても、すぐには座らず、なるべく立って扇子で扇ぐ。「なにかやりそうな日本人がここにいる」という意識付けをドイツ人に対して行なう。ここまでが準備段階だ。

そして、私は、腹の底から大きな声を出した。
「ニッポン!!!」
扇子を広げ頭上に掲げて「ニッポンコール」をする。遠く反対側のスタンドで太鼓隊の音がすれば「ニッポン!!!」と叫ぶ。最大限の声量で叫ぶのだ。最初のうち、米国人達はくすくすと笑っていた。周囲に一緒に叫ぶ人もいなかった。しかし、少し後ろの席の大人しそうな日本人女性2人がコールに参加し始めると、米国人は対抗を始めた。「ニッポンコール」に「USAコール」を合わせ始めたのだ。3人の「ニッポン!!!」と100名以上の「U!S!A!」が交互に起きる。「ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!」。負けるわけにはいかないので10人分くらいの大声で叫ぶ。こうして、メインスタンド左側では日本VS米国の局地的応援合戦が勃発する。

試合が後半に入ると、メインスタンド右側でも同じような局地的応援合戦が勃発しているのがわかる。「ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!ニッポン!!!U!S!A!」遠くから聞こえてくる。それに合わせて私も叫ぶ「ニッポン!!!」

そして米国人は根気負けしたのか体力が持たなかったのか、徐々にコールに参加する人数が減ってくる。私の前の列のアメリカ人は、すっかり男性がコールしなくなってしまい、それに怒った女性がコールを始めるといった内輪もめすら起きる。そんな経緯はドイツ人もつぶさに見ている。宮間の同点ゴールで大きな歓声が上がったのは、米国人以外の多くが歓喜の声をあげたからだ。なでしこが持ち前のパスワークを披露した時間帯であった。素晴らしいプレーを目の前にして、ドイツ人は躊躇すること無く大歓声で応えた。

延長戦に入る時、伝わらないこと承知で、私はゴール裏に向かって叫ぶ。言葉を理解しないドイツ人は私を見ている。特に大きな反応はない。だが、ここに決死の思いで声を枯らしている日本人の存在、それは本当に馬鹿な日本人の姿を認識してもらう。馬鹿でも良い、必至に応援する想いに、少しでも共感を持ってもらえれば。

再びリードされたなでしこだが、澤のゴールで再び追いつく。飛び跳ねて喜ぶ私。絶叫する。そのとき、私の目に入ったのは信じられない光景だった。ゴール裏席の私の声が届く範囲のドイツ人の多くは、ピッチではなく私を見ている。私に向かって、手にした日の丸を掲げ、何事かを叫んでいる。私を哀れんでのことかもしれないが、とにかく、勝ったと思っていた米国を大いに落胆させるゴールに同点歓迎の大歓声を加えていることは事実だ。そして、ドイツ人だけによる「ヤーパンコール」が始まり、試合終了直前の岩清水の退場判定にブーイングが起き、ついにはPK戦でも米国が蹴るときだけに大きなブーイングが起きた。なでしこの、ひた向きで美しいプレーがドイツ人の心を動かした。でも、それに、ほんの少しだけでも心の背中を押すことが、私にも出来たのではないか、と思っている。

(文中選手の敬称略)

つづく






























日米がっちりと握手。


なでしこジャパンの円陣に拍手が起きる。


延長戦突入が決まり、スタッフは慌てて段取りの変更連絡。


選手達は、この大観衆の光景を見て、どう感じただろう。


日本サポーターは少数精鋭。大きな声で米国サポーターに対抗した。

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