malicia witness FIFA女子ワールドカップ2007中国
4_新天地で明日の闘いを占う

テレビを見ていると、この国が「反日」で騒がれることを信じられなくなる。バラエティ番組のほとんどは、日本で見覚えのあるパターン。例えば「女性スターの鞄の中身を拝見・第二弾」というコーナーをやっていた。構成やセットの造り込み、そして、アクションやコメントに合わせて当てられている効果音までが日本の番組とソックリ。そしてなにより、タレントたちの衣装コーディネイトやメイクまでもが日本風なので、音声を消しておけば、知らない人は日本の番組と勘違いをするかもしれない。上海では日本のファッション雑誌「oggi」が売れている。結婚情報誌「ゼクシー」に至っては、上海で成功を収め北京へも進出する。だから、心の底では、どこかに日本への憧れを抱いている上海人も多い。イングランド女子代表戦の後に「おめでとうございます」と握手を求めてきた中国人が何人かいた。興奮気味に、知っている日本語を数珠つなぎにして話しかけてくる女の子もいた。この日、片言の英語同士で会話した女性は福山雅治の大ファン。歌は全て歌えるし、彼の撮影した写真についても詳しいと力説していた。そして木村拓哉は嫌いなんだとか。

今大会が行われている虹口球技場とは別に、上海には八万人体育場と呼ばれる巨大スタジアムがある。その近くに、なでしこジャパンの練習所として提供されている大学がある。また、宿泊地も、そちらの方面だという。私は、彼女たちに、寄せ書き入りの日の丸を届けるために地下鉄に乗った。

イングランド女子代表戦で並べて掲げた日の丸2つは、日産スタジアムでのJリーグ、国立競技場での五輪予選、国立競技場やフクダ電子アリーナでの女子親善試合、そして、なでしこリーグカップの試合会場で、女性を中心としたサッカーファンたちにメッセージを書き込んでいただいたものだ。さらには、女子サッカーが好きなグラビアアイドルの小田あさ美ちゃん(日テレジェニック2007)、元日本女子代表主将の野田朱美さん(現JFAアンバサダー)、そして、日本サッカー協会最高顧問の長沼健さんにも、メッセージを書き込んでいただいている。当初は、アルゼンチン女子代表戦を終えたタイミングで届ける予定だったのだが、イングランド女子代表戦を引分け、アルゼンチン女子代表戦がとてつもなく大切な試合となったため、予定を変更して、この日に届けることにしたのだ。

なでしこジャパンの滞在ホテル(というか女子ワールドカップの場合は各国チームが同じホテルに宿泊している)のロビーマネージャーに日本語で話しかけてみると、なんと日本人だった。これならば、話は早い。
「なでしこジャパンに、お届けをしたいものがあるのですが。」
「どなたにお取り次ぎをしましょうか。」
さすがに選手に直接届けるわけにはいかない。しかし、選手団のスタッフに面識のある人がいない。仕方ない。ここは、唯一、面識のある人にお願をするしかない。

「大仁さんしか存じ上げていないので、大仁さんもしくは、代わりの方に、お取り次ぎいただけますでしょうか。」
「わかりました。先ほど、大仁さんは、いらっしゃいましたよ。お呼び出ししてみます。」
ロビーマネージャーは、内線電話をかける。日本語のやり取りではなければ、ここまでスムーズに事を運ぶことは出来なかっただろう。幸運だった。
「これは心強い応援だ。ありがとう。」
大仁さんは、そう言った。日本の皆さんから預かった寄せ書き入りの日の丸を、日本女子代表選手団長の大仁さんに直接渡すことが出来、私は肩の荷が下りる気持ちだった。

夜は2つの待ち合わせが予定されている。一つは上海在住の弟との夕食。もう一つは、エルゴラッソとサッカーダイジェストのライターさんたちと飲みにいくこと。場所は、いずれも新天地に設定をした。

新天地は、ある意味では上海らしい場所。また、別の意味では上海らしくない場所ともいえる。オシャレでインターナショナルなストリートは、道を隔てた繁華街とは一線を画している。ここは、旧フランスの居留地をリゾベーションしたエリア。オールド上海の雰囲気を漂わせながら、東洋と西洋が交錯する新しい上海の象徴的なスポットともなっている。

19:00頃に新天地へ行くと、スターバックスコーヒーやPAULといった、日本でおなじみのネオンがすでに輝いている。そして、銀座にも出店をしている上海キュイジーヌの夜上海など、モダンなダイニングレストランが並ぶ。その大半がオープンエアのテラス席を併設していて、その賑わいは昨年に訪れたデュッセルドルフのライン川付近の繁華街を思い出す。そして、店でビールを楽しむ人々の顔ぶれは、圧倒的に欧州系が多い。

弟と食事をするのは
鼎泰豐(ディンダイフン)。ニューヨークタイムズで「世界の10大レストラン」に選出された台湾の有名レストランだ。日本にも数店舗を展開しているが、上海の店は美味いらしいということで、ここをチョイスした。

上海には、上海式の
饅頭店をはじめとする小籠包の名店がいくつかあるが、鼎泰豐(ディンダイフン)の台湾式小籠包は格別の味わいだった。そして、小籠包以外のメニューも、何を食べても美味しい(全て弟のチョイスに任せたのも功を奏した)のだ。さらには、上海では別格と言えるほどに清潔で接客が良い。スタッフはテキパキと働き笑顔に溢れている。
「台湾人は上海人を奴隷のように教育するからね。」

弟が言うには、この新天地の店舗のオーナーのほとんどは台湾人。いくつかの店は香港人と日本人がオーナーなんだそうだ。どうりで、このエリアだけが上海における「新天地」となるわけだ。

鼎泰豐(ディンダイフン)を22時頃に出ると、新天地は人で溢れかえっていた。オープンテラスの座席も埋まり、麻布十番祭りのような賑わいになっている。ここで弟と別れ、ライターさんたちと待ち合わせをしているTMSK透明思考へ入る。この店もオーナーが台湾人で、接客が良い。食器、グラス、テーブルなどが瑠璃工芸で造られたアーティスティックなデザインは、日本でも知られている。東京でも、これほどまでに造り込んだ内装のバーに足を踏み込むことは難しいだろう。混雑する店内で、ライターさんたちを加えて合計5名で席を確保し、異国での再会を祝う乾杯。賑やかな新天地の雰囲気に後押しをされたのか、話が盛り上がる。上海の人々の話、大会ボランンティアの話、そして、明日のアルゼンチン女子代表戦の展望だ。
「アルゼンチンはドイツに11点を獲られたけれど、ドイツの速い動きに付いていけなくて混乱しているうちに失点をしたって感じだったよ。だから、ドイツ戦を経験したことで、逆に、日本の動きがゆっくりに見えて、けっこうやれちゃう可能性もあるから、楽勝とはいえないと思うよ。」

「けっこうロングレンジからのシュートを放っていたから、それがラッキーで入っちゃったりすると、そうとう苦しい試合になるから、まずは序盤に主導権をしっかり握らないといけないよ。」
「そういえば、今日、練習場に寄せ書きされた日の丸が2つ貼り出されていたよ。」
大仁さんに届けた日の丸は、今日のうちに選手の元に届いたようだ。

「あ、石井さん。着いた着いた。さっきホテルにチェックインしたよ。明日、10時ね。」
ケータイに電話が入る。仲のよい友人が3人、上海に到着したのだ。明日は決戦。3人は、最も大切な決戦の応援のためにやってきた。ただ、彼らが日本で目にしてきた報道ほど楽な試合になるとは思えない。そして、17:00キックオフの試合に、どれくらいの日本人が来てくれるだろうか。加藤君が帰国したので、おそらく太鼓もないだろう。私たちは、明日も、上海人たちの鋭い視線に負けずに全力で応援しなければならない。選手たちには、後押しをしてくれる力が必要なはずだ。

新天地の賑わいは深夜になっても終わることがない。ただ、私たちは、明日が決戦の日。タクシーでホテルへ帰ることにする。明日の夕食も、今夜のように笑顔で楽しめるかは、アルゼンチン女子代表との試合結果次第。泣いても笑っても、上海で過ごす夜は、明日で終わる

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青山や広尾を思わせる錦江ホテル付近の街並。



どこかで見たことがあるようなテレビ番組。言葉がわからなくても飽きない。



上海の物価は高いが北京ダックは東京よりもかなり安く食べることが出来る。


中秋の名月に合わせて知人に月餅を贈る風習がある中国は、月餅商戦の最盛期。あらゆる飲食店やホテルがオリジナルの月餅を売り出す。ハーゲンダッツのカラフルなアイスクリーム月餅は大人気。百貨店には特設売り場が設けられている。


一方で、まったく人気のないコールドストーンアイスクリーム。東京では行列必死だが、この店は人影なくひっそりとしていた。従業員は全員が男性だった。


こちらも外壁がガラス張りで豪華な上海八万人体育場。


上海八万人体育場の周辺には高層マンションが建ち並んでいる。

オールド上海の街並を、現代の感覚で味付けした新天地の街並。


なぜか「サンパウロに早く帰りたい」と言っていた弟。日本じゃないのか。


オリエンタルなムードを醸し出すTMSKのバーカウンター。


新天地から戻ると、ホテルスタッフがベッドの上にプレゼントを置いておいてくれた、が、これが、なんともいえない偽ミッキーマウス。

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