malicia witness FIFA女子ワールドカップ2007中国
6_上海での経験を日本で振り返る

帰国し、まず初めに行なったことは、ガスの元栓を開けるよりもスカパーの契約をすることだった。ドイツ女子代表との試合を生中継で見るためだ。残念ながら力差は大きく、なでしこジャパンは敗退した。元日本女子代表の東明さんが選手に聞いた話では、杭州でのドイツ女子代表戦は、上海での2試合と比べれば、遥かに厳しいブーイングに圧力をかけられ、プレーしづらかったということだ。上海でのブーイングは楽しみながらのブーイングだった。中国は広く地域による差は大きい。

決勝戦のドイツ女子代表は、イングランド女子代表に苦戦したときとは比べもにならない豊富な運動量と厳しい守備で、難敵ブラジル女子代表を下して史上初の2連覇を成し遂げた。友人たちと生中継を見ながら、ある著名なサッカージャーナリストから聞いた言葉を思い出した。

「なでしこジャパンには日本サッカーの全ての問題点が凝縮されている。」
ただ、これは、少し違うとも思う。私流にアレンジして言えば
「女子サッカーこそが世界の言葉。」
女子サッカーで世界各国の特徴を語ることができる。


「サッカーは世界の言葉」はサッカーは世界共通の関心事で、サッカー一つで世界中の人々とコミュニケーションを図れるという意味。過去においては、その世界の言葉で世界の多様性についても語ることが出来た。しかし多様性の面では、すでに過去の伝説となりつつある。ボーダレス化が進み、南米と欧州のスタイルの差も、かなり小さくなった。バロンドールは南米の選手から選ばれることもおかしくない時代だ。そんな折に、決勝戦では、ドイツ女子代表はドイツらしく精密に、ブラジル女子代表はブラジルらしく奔放に闘った。そして日本は日本らしく、なんとなく・・・。

とはいっても、女子サッカーは、まだ世界中に普及をしていないのだから 「女子サッカーこそが世界の言葉・・・に、なるかも」くらいに修正をしておく必要はあるが。


さて、帰国時のアクシデントについて報告をしておこう。石川ちゃんは、女性らしく大きなスーツケースで帰国した。ところが、深夜に上海入りして、翌日に自由行動があって、翌日の朝には上海を発っている女性一人旅にしては不自然な強行日程。どうやら、密輸女と間違えられたようだ。きっとスーツケースの中には偽物のブランドバッグがぎっしり入っているとでも思われたのだろう。税関で「スーツケースを開けろ」と言われてしまう。渋々開けると、そこには日本代表のユニフォーム。それを見て空港職員は
「あぁ、サッカー観戦ですか。あのロスタイムの。」
と言って、通してくれたのだそうだ。さすがに、アルゼンチン女子代表戦は地上波でも生中継されていただけのことはあって、日本でも話題になっていたことを示すエピソードだ。

今日、この章を書いている、この日、私は東銀座の東劇で「夜の上海」という映画を見た。上海人の暴走タクシーの運転手と日本人の上海での一夜の物語だ。暖かくて冷たくて、ちょっとほろ苦い映画を眺めながら最後に小さく涙したのは、きっと、暴走タクシーに乗ることから始まった私の上海での6日間の記憶が、まだ新しすぎるからだったのではないかと思う。ただ、この記憶の鮮明さが将来に色褪せるかというと、どうもそんなことはなくて、ずっと新鮮なまま、私のフットボールライフの片隅に、これからも置かれ続けるような気がしてならない。

ARIGATO 謝謝 CHINA




前回、仕事で上海を訪れたときに、この門の前を通った。暗く広く続く門の中の空間に、いつかは足を踏み入れたいと思った記憶がある。


門を入って右側の奥に、今回、宿泊をした南楼がある。北楼よりは価格が高いはずが、なぜか笑顔のないホテルスタッフは不思議だった。しかし、アルゼンチン女子代表戦を前に、ロビーをユニフォームで歩いたとたんに、これまでは無口だったホテルスタッフが笑顔で話しかけてきた。話題はサッカー。不思議なことだ。


とはいえ、快適な上海ライフを提供してくれた、このホテルには感謝をしている。


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